真空排気ユニット│真空ゼミナール
真空排気ユニット:-真空ポンプの選定と組合せ-
1.はじめに
大気圧より低い圧力状態を作るには、簡単には密閉容器中の空気を真空ポンプで排気すれば実現できる。減圧状態(真空)を利用する目的により真空ポンプの形式及び排気速度が変わるのでその選定には、減圧する条件を明確にしなければならない。
減圧された容器中の状態(ガス密度が低い)そのものを利用するのか、あるいは減圧後にガス置換(不活性ガス、Ar等)を行い、酸素による酸化反応を抑制するために利用するのかによって異なるし、利用する圧力レベル(真空度)によっても大気圧から真空排気する真空ポンプが単一機種でよいのか、複数機種によるシステム構成になるのかが決まってくる。従って利用目的を明確にした上で真空ポンプの機種選定、システム構成を考える必要がある。いずれにしても真空度が高くなるほど(大気圧より低くなる程)真空ポンプ及び周辺機器のバルブ、配管フランジ、シールリング等が高価になるのでシステムコストを考えるならば、利用目的を明確にする事は非常に重要なファクターとなる。
本稿では最近の動向を踏まえて実現したい真空状態に見合う真空排気ユニットの構成及び密閉容器と接続する上での留意点について述べる事にする。尚、各真空ポンプの構造や排気特性については、資料(1)、(2)、(3)等に詳しく記述されているので、これらを参照することをお勧めする。
2.ポンプ構成と用途
表-1に実現したい真空状態(圧力範囲)と代表的な真空ポンプの組合せ、および主な用途、装置を示す。圧力が大気圧に近い低真空域では、ポンプ単体(例えば油回転真空ポンプ、ドライポンプ等)で対応する事が可能であるが、中高真空以上の圧力範囲では複数機種を組み合わせたユニット構成となる。これは低真空域に対して中高真空域ではガス密度が小さくなり、ポンプ構造が変わるためである。
容器を大気圧から排気する粗引きの場合、配管内の流れの状態は粘性流なのでガス分子をガス体の塊として圧縮排気する容積型ポンプ(油回転真空ポンプ、ドライポンプ等)がほとんどである。圧力が大気圧の1/105位になると排気管内の流れは、ガス分子同士が衝突しない分子流領域に近づいてくるので、排気メカニズムはガス分子をたたき出す形に変わりターボ分子ポンプ、油拡散ポンプが主排気ポンプとなる。この時、大気圧からの粗引き排気に作動していた容積型ポンプは、主排気ポンプの背圧(排気圧)を大気へ圧縮排気する補助ポンプとして作動する(図-2参照)。粗引きラインから高真空排気ラインへの切替えは、容器内圧力がターボ分子ポンプ、又は油拡散ポンプの作動開始圧力になった時点で行う。バルブ操作は手動又はシーケンサーによる自動操作で行い、粗引き弁を閉じ補助排気弁を開けてから主排気弁を開ける。
表-1の真空ポンプ構成で低真空域、高真空域にかかわらず、容器内のクリーン度が求められる場合、容器内への油の混入を防ぐため粗引き排気系にドライポンプ、高真空域の主排気系にターボ分子ポンプもしくはクライオポンプが使用される。
最近では、半導体製造装置ばかりでなく、DVD、デジタルカメラ、携帯電話用部品の表面処理、プリント基板材料、圧力センサ素子製造などでもドライ系システムとすることが多い。
3.真空ポンプの選定-到達圧力とポンプ排気速度、排気時間-
表-1から明らかなように、利用目的により必要な圧力(真空度)が決まれば、その圧力に到達する時間と必要なポンプ排気速度を決めなければならない。排気ユニットに接続する密閉容器(真空槽)の容積:V[ℓ]とした時、到達圧力範囲により以下のようにして求めることができる。
(1) 大気圧~低真空域:100kPa~0.2kPa
低真空域では容器と真空ポンプを接続する配管内の流れは粘性流(層流、乱流)であり、排気時間は式(1)に示すように初期圧力:P1と到達圧力:P2の比、ポンプ排気速度:S、容器内容積:V(配管容積を含む)から求めることができる。
P1:初期圧(大気圧)[Pa]
P2:到達圧力[Pa]
t:排気時間 [min] , P1:初期圧(大気圧) [Pa]
v:容積 [ℓ] , P2:到達圧力 [Pa]
Se:実効排気速度 [ℓ/min] =0.8S
S :理論排気速度 [ℓ/min]
※ 実効排気速度Seは配管、バルブの圧力損失を考慮して概算でポンプ排気速度の80%とする。
(配管がポンプ吸入口より細かったり、極端に長い場合はコンダクタンスを計算した上で容器の排気口位置での実効排気速度を求めなければならない。又、この領域での水分、溶剤等の蒸発がある場合は蒸発ガス量がポンプ排気速度に大きく影響することがあるので注意を要する。)
(2) 高真空域~超高真空域:0.2Pa以下
高真空域では容器(配管含む)内のガスを排気するよりも、圧力低下によって容器壁から蒸発するガス量が排気に大きなファクターとなってくる。従って排気時間、排気速度を求める計算法は低真空域と異なり、以下のようになる。
P(t) : 到達圧力
Se : 実効排気速度※(主排気系)
Qℓ : 外部リーク量
Qg(t) : 容器内ガス発生量
P0 : ポンプ吸気口での到達圧力
※実効排気速度は配管、バルブのコンダクタンスとポンプ排気速度の合成として計算される(資料2,3,4参照)
容器内表面からのガス発生量:Qg(t)は排気時間:tと共に減少するので、計算のスタートに排気時間を仮定して、その時のガス発生量から式(2)で到達圧力を求める。計算結果のP(t)が必要とする圧力(真空度)と一致しなければ、再度時間を仮定して、その時間のガス発生量からP(t)の再計算を行い、必要圧力と計算結果:P(t)が許容できる範囲に納まるまで繰返し計算を行う。
高真空域では、低真空域のように必要圧力とポンプ排気速度から単純に排気時間は求められない。また、表面からのガス発生量は容器内表面を溶剤等で脱脂清浄しただけの場合と、150℃~200℃でベーキング処理した場合では、後者の方がガス発生量は約1/10位少なくなるので、同じポンプ構成でも到達圧力は低くなる。(資料(5)を参照)
ここで注意しなければならないのは容器内の構造物、処理する製品の形状や材質である。これらも当然高真空域ではガス発生源となるので容器内構造物が構成上、ボルト締結部があったり熱伝導、電気絶縁の点から樹脂材(テフロン、PEEK、ポリエステルテープ等)、セラミックを使用したりすると、金属表面よりはるかに大きなガス発生を伴う。到達圧力は表面積からのガス発生量で計算した値よりも実測値で2~3桁位悪くなるケースもある。これは、ネジ部谷径の溝、タップ孔底に溜まったガスが排気時間経過と共に表面にしみ出てくるという現象によって生じる。従って、高真空排気では容器内構造物が複雑になる程、計算上に現れないファクターがあり、設計上の経験的な判断を加える事になる。
(3) 中真空域:200Pa~0.2Pa
中真空域の配管内流れは、粘性流と分子流の中間的状態になり低真空域や高真空域のように簡単な計算式で排気時間や到達圧力を求めることはかなり難しい。簡易的には式(1)、(2)で排気時間を求め、計算値の大きいほうを取れば設計上は安全サイドである。(詳しくは資料(4)の中間流の計算法を参照)
特に中真空域ではポンプの吸入圧(容器内圧力)が下がると排気速度が低下してくる。P1:200Pa以下ではP1、P2間に分割し、平均排気速度で計算すれば、より正確な値を求めることができる。
4.排気ユニット構成の留意点およびメンテナンス
(1)配管及び接続部シール
容器と真空ポンプをつなぐ配管は金属配管、もしくは真空用ゴムホースを使用する。網入りホースを使用したり、金属配管でもねじ込みで接続するケースをよく見かけるが、ホース継手部、ねじ込み部の隙間がリークの原因となり、求める圧力まで到達しないのがほとんどである。金属配管の接続はフランジで行い、フランジ面のシールはOリングを必ず使用する。真空用ゴムホースを使用する場合は、ホース金具につないだあと、ホースバンドで締結すればリークすることはほとんどない。ただし、ゴムホースは長期間使用するとゴムの劣化によりホース自体にクラックが発生してリークの原因となるので注意を要する。
(2)真空ポンプのメンテナンス
真空ポンプを長期間使用すると、ドライポンプではベアリング寿命とか、油回転ポンプではオイル劣化とかが生じて排気性能に影響を及ぼす。表-2に代表的な例と対策法を示す。油回転ポンプ、油拡散ポンプのオイル劣化は、排気速度低下とか、到達圧力不足とかという症状になって表れる。ドライポンプ、ターボ分子ポンプでは、ローターが高速回転しているため、ベアリングの寿命時間に近づくと、異常音とか異常振動となって症状が出てくるので注意していればローター破損という最悪の事態は免れる。通常はメーカーによる定期メンテ時間が明示されている。クライオポンプも同様にHeコンプレッサーの定期メンテ時間がメーカーによって決められている。
5.まとめ
真空装置(真空容器、排気系、自動制御)のトラブルで大半は排気系、特に真空ポンプ本体で発生する。真空処理を行う過程で発生するガス、粉塵がポンプの排気性能を左右するのでこれらの発生ガスをポンプ周辺機器で除去すれば、真空ポンプのメンテサイクルを長くすることが可能となる。
佐藤真空ではオイル浄化装置等周辺機器をラインアップしてユーザー要求に対応できる体制を整えています。本資料が、真空排気ユニットを構成する上でユーザーの方々の一助となれば幸いです。
資料
(1) 真空用語事典 工業調査会 2001
(2) 真空技術実務読本 オーム社 1994
(3) 真空技術ハンドブック 日刊工業新聞社 1990
(4) プラズマ半導体プロセス工学 内田老鶴圃 2003
(5) 真空、Vol.29,No.5,P52 日本真空協会 1986
表-1 圧力範囲とポンプ構成・用途
圧力範囲 | 真空ポンプ構成 | 主な用途、装置 | |
---|---|---|---|
Pa | |||
低真空 | 100kPa~0.2kPa (大気圧) |
(WP)+(MB) |
|
RP DRP |
|
||
中真空 | 200Pa ~ 0.2Pa | (RP)+(MB) (RP,DRP)+(TMP) |
|
高真空 | 0.2Pa ~ 2 × 10 -5 Pa | (RP)+(DP) (RP)+(TMP,CP) |
|
(DRP)+(TMP,CP) |
|
||
超高真空 | 2 × 10 -5 Pa 以下 | (RP,DRP)+(TMP)+(IP) |
|
WP:水封ポンプ MB:メカニカルブースターポンプ RP:油回転ポンプ DRP:ドライポンプ |
TMP:ターボ分子ポンプ DP:拡散ポンプ CP:クライオポンプ IP:イオンポンプ |
表-2 真空ポンプオイル劣化の原因と対策
:症状は排気速度低下、到達圧力不足となります
原因 | 対策 | |
---|---|---|
油回転ポンプ |
|
|
油拡散ポンプ |
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|
※1:溶剤蒸気の蒸気圧特性により吸着できないケースもある
ex)トラップ温度:-25℃の時 アセトン、エタノール、トルエン等は吸着しない
図1 低真空域の真空ポンプ構成

図2 超高、高真空域の真空ポンプ構成
